第六の絶滅

Die Wahrheit ist irgendwo da draußen.

ヤマノススメの小道具と美術 冷蔵庫の中

ヤマノススメ セカンドシーズン』が無事に最終話を迎えた。

尺はなんと一期の三倍*1、山に登ったり挫折したり喧嘩したり仲直りしたり新しい友達ができたりと充実したシナリオに、精緻なレイアウトや一人原画回など作画的な見どころも満載で、昨年の中でも*2特に印象深い作品だ。

今回はその中でもキャラクターの生活感・存在感を存分に演出している小道具と背景美術に注目したい。

 

#12 「Dear My Friend」 

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この回は全体的に導線の丁寧な構成でシリーズ中でも特に良い感じに出来上がっているが、小道具の使い方が抜群に良い。

あおいの富士山での挫折を象徴する金剛杖が、お母さんによって鉢植えの朝顔の支柱にされているというこの趣深さ。富士山の御来光を見られなかったあおいの挫折の象徴が、朝に花を開く花と一緒になっているというのも印象深い。

あおいは山頂へ行くことは出来なかったけれど、朝顔は空へ向かって伸びていって、朝には花を開くわけで、あおいが失意から立ち直ることを示唆している。

 

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あおいの部屋には富士山で使った道具やぬいぐるみ、ようかんが放置されていた。先ほどの金剛杖にもたぶん部屋に転がしておいたところをお母さんが見つけて「要らない」「要らないならお母さんがもらうわ」みたいなやり取りがあったんだろう……など想像が広がる。

 

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そして富士山の山頂で投函したひなたとここなからの葉書が届く。ひなたがべらぼうに達筆で、スタンプも曲がらず正確に捺されているという意外な几帳面さが垣間見えたり、二人の個性がよく現れている。

 

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なんやかんやで立ち直ったあおい。放置されていたぬいぐるみはきちんと棚に置かれ、写真も写真立てに入れて大切に飾られている。

失意から立ち直り次へ進んでいこうというあおいの心の変化が小道具を用いてその住まいへしっかりと反映されていくこの丁寧さ! さらに朝顔も花を開いてつづく!

ヤマノススメ最高~✌( 'ω' )✌

 

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ちなみにこの朝顔と金剛杖はアルバイトを始める、というあおいにとっての成長を示唆する小道具として #18 「アルバイト、始めます!」でも冒頭で使われている。こうした小道具が使い捨てにされずシリーズに渡って描写されることで、その時その時だけでない時間の流れを意識させられるし、それがキャラクターが確かに暮らしているという生活感・存在感を生み出すのだ。

 

雪村家の暮らしぶり

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これが主人公・雪村あおいの自宅。豪邸すぎでは?

 

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ちなみに原作ではのび太の家のようなごく普通の家なので、アニメ化で随分と裕福になった模様。アニメってすごい!

 

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あおいの部屋。友達を4人呼んでも広々。

家具のデザインや色もかわいらしく統一されており、充実した小物などセンスの良さが窺える。

 

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キッチン・ダイニング。

 

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レシピを見ながらお菓子を作る時にわざわざこんなブックスタンドを使っている! オシャレ!

 

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玄関の構えやお庭の雰囲気からはどうやらお母さんの趣味はガーデニングらしいということも読み取れる。

 

雪村家の冷蔵庫

雪村家が裕福でオシャレなご家庭というのはご理解いただけただろう。ここからが本題。

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#7 「カワノススメ?」から雪村家の冷蔵庫。

このワンカットをとっても

  • ジャムが二種類とマーガリン→朝食はパン派
  • カレーやおでんなどが入っているであろう鍋→煮込み系メニューは残ってもいいからたくさん作るタイプ
  • 塊のハム→スライスハムでない裕福さ
  • 鮭フレーク→お弁当に使いそう
  • プリンの後ろの豆腐らしきパック→冷ややっこにするには三人家族だと1パックじゃ足りないよね!

など、雪村家の食生活を色々と想像出来て良い感じだ。

そしてこのマーガリン!

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S1 #3 「登山って、命がけ!?」であおいがサンドイッチを作る時にマーガリンを使っている。きっと普段のあおいやお父さんのお弁当にサンドイッチがラインナップされることも多いのだろう。

 

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これだけ裕福なご家庭で育ったのに百円のプリンをこれほど嬉しそうに食べるあおいのまっすぐさはどうなのかと思ったりもするが、問題はこのプリン。

雪村家は三人家族である。各ご家庭で色々買い物のやり方が違うというのは重々承知の上で、三人家族なら三個買わないか?という疑問。

  • お父さんは甘い物をあまり食べないのでお母さんとあおいで二個ずつ食べる
  • あおいが二個食べる
  • 全部あおいが食べる
  • なんとなく四個描いた

という状況も十分にあり得るが……本来は三個のところ敢えて四個用意しているものと考えたい。

 

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S1 #11 「明日はアウトドア!」

この回では劇中では初めてあおいが家に友達を呼んでいるところが描写された。

 

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S2 #5 「ゆるして、あげない!」

棚のぬいぐるみを見て「また増えたなあ」とひなたが呟いていることから、高校で再会してから何度かあおいの家に遊びに来ていると推定出来る。

 

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S2 #16 「思いをうけついで」

四人揃ってかえでの家に行く回では、「そういえばかえでさんの家に行くの初めてだね」という台詞がある。*3

 

以上のことから、少なくともひなた、かえで、ここなの三人は何度かあおいの家に遊びに行ったことがあるわけだ。

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つまりこの四個のプリンは、あおいの友達が来ることを想定して四個用意してあるのだ!!

中学の時は一人で家に籠もって遊んでばかりいたあおいが高校生になって友達を連れて来たとなると、当然あの少々過保護気味なお母さんは大きな変化として受け止めるだろうし、家に遊びに来るような友達が最大三人いる、ということを踏まえた上で食料品の買い物をするだろう。

なんという……なんという素晴らしい冷蔵庫……。

アニメ冷蔵庫史上最も素晴らしい冷蔵庫の一つとして末永く語り継がれるべき冷蔵庫と言わざるを得ない。ありがとう、ありがとう。

 

最後に

以上、#7 や #12 を例に挙げて『ヤマノススメ』の小道具・美術の使い方の巧さについて、多少なりともお伝え出来たことかと思う。

他にもひなたやここな、かえでの家、各人の携帯電話などについても触れたいところだが、煩雑になるのでここまでとする。

ヤマノススメ』は実在の町・埼玉県飯能市を舞台にした物語だ。

何故実在の町をモデルにするのか、まあ色々と理由はあるだろうが、一から架空の町を作り上げるよりも確実にリアリティが得られるから、というのが一番にあるのではないだろうか。

ヤマノススメ』はそこだけに留まらず、本稿で挙げたように美術・小道具を駆使して架空のキャラクターが日々を過ごしている町と家を生活感豊かに演出し、キャラクターと世界の双方に確かなリアリティと実在性を生み出すことに成功している。確かな日々の暮らしがあるからこそ、山という非日常がより輝くのだ。

ヤマノススメ最高~✌( 'ω' )✌

 

スタッカート・デイズ

スタッカート・デイズ

 

*1:15分

*2:アニメ全部観た

*3:ちなみに、この後の「(かえで)狭い部屋だけどゆっくりしていってね」「(ここな)いえ、とっても広いです」というやり取りを考えると、たぶんここなの家には誰も行ったことがないのではなかろうか……。