第六の絶滅

Die Wahrheit ist irgendwo da draußen.

帰ってきたアニメ全部観た2020ライト版

新型コロナウイルス感染拡大の影響もものともせず2020年も多くのアニメが発表された。延期とか中断とかあったけどあんまり減った気しないね。アニメ業界、一体いつ破綻するんだ……。

というわけで2020年もアニメ全部観たので良かったやつとか何かしら心にしこりを残した作品について簡単にまとめました。全部について書くと2021年のアニメ全部観る時間がなくなるからライト版です。 

 

  

良かったアニメ10本

恋する小惑星

はやぶさ2小惑星をめぐる52億4000万kmの旅を終えた一方で、日本のアニメーションもまた恋する小惑星を深夜アニメという名の宇宙へと送り出した。派手さのない丁寧なつくりの群像劇で、特に良かった9話については以前書きました。

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星に憧れる二人の話をやるにあたって天文部ではなく天文部と地学部が合併している部という舞台を用意するのがまず良い。宇宙飛行士みたいなわかりやすく宇宙に行く人(そっちはモンロー先輩がやってる)ではなく小惑星を発見して名前を付ける人になりたい人の話なのだから、地層とか鉱物とか地球内部にベクトルが向いている人の話も一緒にやることで地球から星空を見上げ宇宙に手を伸ばす二人の構図をより強調しているんですね。 

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1話冒頭の星空を見上げる子供の頃のみらとあおのカットが最終話の最後でも引用されスーッと現在の彼女たちにフェードするんだけど、子供の頃の方が星は近くにあり一際輝いていて、成長した現在の方がそのきら星はむしろ遠ざかって見える、という一見すると逆じゃないの?と感じる対比。しかし木々は消え視界は広がり、一際輝くきら星だけでない星空すべてを見渡せるようになっている。星空は二人だけのものではなく誰もが見上げているものだと彼女たちは知っているから、周囲には出会った仲間たちの姿もある。これを見ているあなたにも世界のどこかに目指す場所、目指すものが見つかるかもしれないよ。そういうことを表現している演出なんですね。星をみるひとスターゲイザーなんだよなぁ……。

自分はこのような形にまとめる話が大好きで、これを神々の山嶺式と分類している。

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谷口ジロー×夢枕獏神々の山嶺』より

人類史上初の世界最高峰登頂を果たそうとエベレストに消えたマロリーとアーヴィン、彼らの姿はこの世界に生きる人々の姿そのものだと語るオデル。星空を見上げるみらとあおはマロリーとアーヴィンでありオデルでもある。そしてアニメを観る我々もまたマロリーとアーヴィンでありオデルでもある。そういう話なのだと思います。 

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それと10話のエンドカードを『少女終末旅行』のつくみず先生が描いているのがめちゃくちゃ良くない? 星空にさかなを見つける二人と、地層の連なりの中にさかなを見つける二人というこの作品を完璧に理解したイラストの良さは言うまでもないが、終わってしまった世界で何の意味もないかもしれないのに世界の果てを目指す二人に「ユーリ」と「チト」、人類史上初の宇宙飛行士になった人となれなかった人の名前を与えた作家にこの作品のエンドカードを託したということが……。

 

メジャーセカンド2

『ハチナイ』『球詠』と女子野球アニメが連続していたところにNHKで放送された本シリーズは、少年野球を舞台に二世がコンプレックスと戦ったりする話をやっていた第1シリーズから打って変わって(野球だけに)男女混成の中学野球部にフィールドを移し完全に美少女野球アニメとして成長を遂げた。原作は万乗大智先生満田拓也先生(どういう間違いだよ)なんで当然パンチラとかがたくさんあるわけだが、NHKでのアニメ化にあたってその手の直接的なセクシャル表現は排除され、パンツ出てないんだからええやろとばかりにフェチ表現を搭載。

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NHKの放送コードに完全に適合した美少女描写

無論それらは枝葉末節で、男女が一緒に野球競技ができる最後の時期の中学野球で女子が野球をやるということも一つのテーマになっていて、かなりしっかりとしたドラマがある。小学生のときから豆腐メンタルだった主人公の大吾がキャプテンになって部員を引っ張っていく様子が序盤で描かれ、中学生になってメンタルの弱さを克服したっぽい見せ方をしているんだけど、そこはやっぱり子供なので視野の狭い思い込みでやりすぎたり心がぽっきり折れたりしてしまう。個人の弱さの克服ではなく、チームとして互いの弱さを補い合っていく、強くない主人公、不完全な子供たちがどう戦うかという話をやっているのが、スタープレイヤーではない二世ものの続編としても面白い。

作画も常に良く、見応えのあるカットが満載。

  

イエスタデイをうたって

中学生のときに読み始めて完結する頃には無職になっていた、体感的には超長期連載の大長編作品『イエスタデイをうたって』を1クールで過不足なくアニメ化できるんだ……という驚きがまず大きかった。まあ原作全11巻だしそんなもんだろって話なんだけど。

ハルの実家周辺の話とか結構はしょってる部分は多いんだけど、『イエスタデイをうたって』の芯をとらえたシンプルな構成になっていて、一つの作品としてのまとまりはアニメの方が良くできているかもしれない。まさか平成が終わってから冬目景作品がこんな風にアニメになるとは思わなかった。

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絵柄も連載後期寄りに統一されている(かわいい)

キャスティングも素晴らしく、シナコが花澤香菜さんだったらそれはもう絶対昔から好きじゃんって話だし、ハルが宮本侑芽さんだったらそれはもう好きになっちゃうじゃんって話だし、第三の女ユズハラが喜多村英梨さんっていうのもそうだねってなるし、納得感しかない。

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それと最終回ホームレス排除ベンチがリクオとシナコがその関係にケリをつける決定的な場面で用いられているんですよね。これは原作からだけど。二人の曖昧な関係を整理して「友達」という線を引く。

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それに対比するようにリクオがハルに思いを告げるシチュエーションがバス停のベンチになっているのはアニメのアレンジ。原作では駅のホーム。鉄道とバスの違いは何かというと線路があるかないか。リクオとハルの未来に敷かれたレールはないという明確な意図を感じる演出ですよこれは。キスがリクオ→ハルではなくハル→リクオになってるのも、確かにアニメのハルとリクオならこうなるよなという納得感があるし。原作のカラーを損なうことなく一本のシンプルなストーリーとして再構成・再解釈が行われており、とても良くできていると思います。

イエスタデイをうたって』はかつてイメージアルバムが製作され(イメージアルバムって流行ったね)、そちらではハルに宍戸留美さん、シナコにかかずゆみさんというキャスティングで、これはこれで当時なら見たかったかも。このイメージアルバムはビートルズのインストアレンジ曲と宍戸さんかかずさんによる森田童子カバー曲が収録され……なんで? 確かに『イエスタデイをうたって』に描かれるモラトリアムの世界と森田童子が歌うモラトリアムの世界が同質のものと言われればそんな気もする。時代感覚的に『イエスタデイをうたって』の若者のモラトリアム世界が完全に過去のものになってしまっていることと合わせて考えると何か含蓄がある話かもしれません。ないかもしれません。

高すぎんだろ……。

 

ミュークルドリーミー

『まちカドまぞく』の布陣によるサンリオアニメ。心が弱って悪いものにつけこまれてしまった人の夢に入ってそれを解消してあげるというまあよくある話といえばよくある話だけどめちゃくちゃかわいくてめちゃくちゃ面白い。

第28話「まいらマイラブ」が子供向け通年TVシリーズのフォーマットを効果的に活かして人の心の繊細な機微を活写した名作でありライフ・イズ・ビューティフルを超えたという話は以前日記に書きました。

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まず驚くのはセリフの分量がめちゃくちゃ多くてめちゃくちゃ早口で毎回異常なテンポで30分が一瞬に過ぎ去ること。『シン・ゴジラ』公開時に昔の邦画を彷彿とさせる早口セリフだと話題になりましたが、ミュークルドリーミーは恐らくそれを上回っているでしょう(要出典)。基本的にはサンリオアニメらしいテンションの高いバラエティアニメという感じで全体のトーンは統一されつつも、時たま質感の違う泣かせの回や雰囲気のある演出回が差し込まれたりして、こういうのは通年シリーズならではの見応えですね。

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急にこういう画面になる

また子供向けアニメらしく教育的な回もしっかりあり、主人公のゆめちゃんの嫌いなプチトマトが実体化してプチトマトマンになり無理矢理プチトマトを食べさせようとしてくるという話の第17話「恐怖のプチトマトマン」は、ゆめちゃんが好き嫌いを克服してしまうのではなく「見るのも嫌」が「嫌いだけど我慢すればまあ食べられんこともない」に多少軟化するという実現性のあるオチを付けているのが偉い。これは何事にも言えることで、別にお前が嫌いなものを無理に好きになる必要はないし嫌いなままでいてもいいが、たとえ表面的なポーズであってもその存在を否定することまではしてくれるなと、そういう話なのだと思います。

 

邪神ちゃんドロップキック'

神保町を舞台に繰り広げられる少女と悪魔のハートフルコメディの続編。

神保町が舞台だと散々アピールしていたはずが、主演声優の鈴木愛奈さんの出身地ということしか繋がりのない千歳市と全面的にタッグを組んでふるさと納税で特別回が制作されたという経緯だけで面白い。血税で制作される原作付きアニメってだいぶ際どい領域のような気もするが。地元札幌の局でローカル情報番組のフォーマットで邪神ちゃんドロップキック千歳回を紹介する番組が放送されたりしていたのもかなり味があって良かった。

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納税100%

すごい悪魔が日本のワンルームアパートにやって来て日本的な生活をするという話がドラえもんのパロディだというのは今更言うまでもないんだけど、改めて「ドラえもんのパロディやってます」みたいな画を出してくるのも面白かった。

こういうギャラクシーエンジェル的なアニメが時々あると嬉しいよね。

 

魔王学院の不適合者

本来ならSAO・魔法科高校・魔王学院が同時に放送される三大最強主人公電撃ラノベキャンペーンが打たれていたところ、新型コロナウイルスの影響による延期で放送は別々に。広告見た段階ではSAOとお兄さまに肩を並べるには知名度の点でもかなり格が落ちるのでは?と思ったんだけどめちゃくちゃしっかりしている作品で納得。SAOはもっとしっかりしろ。

最近はラノベっぽい感じの異世界ファンタジーってもう作られまくっているから説明いらんだろとばかりに非常に話の早い展開の1話がよく見られるところ、魔王学院の1話はその中にあっても格段に話の早い展開ですごい。とにかく強すぎる主人公、すぐ主人公に落ちるヒロインたち、キャッチーでインパクトのある決め台詞、こんなに早く話を進めてどうするんだ?と思っていたら、ファンユニオンによるポップミュージック的な応援歌のパワーでアノス様に力を与えるという本来ギャグにしか見えないであろう場面を感動的に見せるための下地が作られていたというね。

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こんな挿入歌クレジットで感動できるアニメ他にないだろ。

なお主演声優の鈴木達央さんによる本作の読解は非常に高度で勉強になります。

originalnews.nico

 

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

ラブライブシリーズって今まであんまりしっくり来なかったんだけど、ラブライブがしっくり来ない……そんな思いに応えるラブライブがあるんです。ラブライブならね。みたいな作品。1話を一見しただけでもキャラクターデザイン、描線、美術、色、芝居、演出、音の全部が抑えめのトーンで統一されており、これまでのシリーズとは全然違う方向でやりますという意気込みが画面全体から出ていることに驚かされる。めばち is 神。

ラブライブが大ヒットしたことでラブライブみたいなアイドルアニメやラブライブみたいなアイドルアニメに逆張りしたアイドルアニメなど色々出てきたところに、ラブライブ自身がラブライブ逆張りしていく。「みんな」の話をやってきた上で、お前の言う「みんな」は本当に「みんな」なんか?、みんながアイドルやりたいとしても具体的にやりたいことはそれぞれ違うのに敢えて「みんな」で一個の目標を目指す必要なくね?という話をやる。『サンシャイン!!』もわりと前作を踏まえた上である程度の逆張りをやっていたシリーズだったと思うんだけど、『虹ヶ咲』はもっと攻撃的にそれをやっている。

近年流行りのYoutubeでアニメMVを公開する楽曲プロモーションなんかを意識していそうな、ライブというよりキャラクターMV色の強いライブパートも自由度が高く毎回見応えがあり、3DCGと作画の調和に関してはもはやそんなことに言及する必要すらないと言えるレベルに達しているでしょう。

5話のエマ・ヴェルデさんがターンエーガンダムだったという話や6話の天王寺璃奈さんが良かったという話は以前日記に書きました。

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3話の優木せつ菜さんが『DIVE!』でファーストペンギンのイメージを提示したことにアイドルマスターXENOGLOSSIAを想起させられたり、

5話のエマ・ヴェルデさんがターンエーガンダムだったという話をしていたら最終話ではお台場に立つユニコーンガンダムガンダムUCの引用として機能していたり、ラブライブサンライズを背負って立つ作品であることも改めて印象付けられた。

通しで観たときに一番印象的だったのはやはり上原歩夢さんにカメラが向いた11話、そして解決編の12話。木下恵介『陸軍』*1に始まり、リドリー・スコットブラックホーク・ダウン*2長谷川哲也『ナポレオン 獅子の時代*3、『アイカツ!最終話』*4など、「走る」「歩みを進める」という行動に人が生きることの意味を託す作品は様々ありますが、上原歩夢さんが駆け出す様にもまた胸を打たれます。

 

魔法科高校の劣等生 来訪者編

一期から(劇場版の時点で)制作会社やスタッフが代わり、新たな体制で制作された第二期。アニメは作り方次第でどうとでもなるということを教えてくれた記念碑的作品。

一期ではよくわからない話を全く咀嚼せずによくわからないまま描写して結果よくわからない映像が無限に流れてくるアニメになっていたものが、二期ではよくわからないなりに映像面の面白さで退屈させないように画面上の盛り上げやキャラをかわいくかっこよく見せる演出、ラブコメ要素の強化など様々な工夫が凝らされ楽しいアニメになりました。アニメってやり方次第でこんなに変わるんだ、そういう感動がある。一期の無限九校戦編ってなんだったの?

無敵の来訪者というアオリで登場した新キャラ(劇場版で先出ししてたけど)のリーナも全然無敵でもなんでもなくポンコツでかわいいし、キャラクター小説なんだからキャラクターは魅力的じゃなきゃダメでしょ?っていうのをラブコメ作品っぽくしてかわいい場面を多く描くことで解決しているんだよね。最強の達也が敵に翻弄されてちょっと戸惑う、かと思えば急にバレンタインデーの話が始まる、と思ったら明らかなラブコメ回もまた本筋のシリアスな話に絡んでくる。2020年、勝利の鍵はラブコメでした。

作画も素晴らしく、2話の高岡淳一さんによる一人コンテ演出作監原画回も話題になった。

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影の圧がすごい

一期・劇場版・二期と通して観ることでアニメの奥深さを感じることができるのではないかと思います。

 

NOBLESSE-ノブレス-

韓国の漫画が原作のシリーズ。全然知らなかったけどすごい面白い。

現代吸血鬼モノ? 一応能力バトルっぽいんだけどどちらかというと学園コメディ的な方に重きを置いていて、吸血鬼の貴族社会を抜け出したライジェルが人間のふりをして日本の学校で学生生活を送っていて、学友との交流を通して人間を知ったりラーメン食べたりする。シリアスな話をやっても毎回Cパートでギャグをやって落とす。なんだかちょっと懐かしい雰囲気がある。

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めっちゃラーメン食べる

7話がすごく良くて、色々あってライジェルたちが人外の存在だと知った学友のユースケがそれには触れずに今まで通りただの友人としてライジェルたちに接していて、セーラに惚れたがどうアプローチしたらいいのかわからないっていうのをみんなでアドバイスして失敗を繰り返すラブコメみたいな話を普通にやる。それに対してセーラは「あなたは今まで通りでいい」と言う。そうだよなとなった後に、ライジェルが「秘密を知った一般人は狙われる、命の危険があるからお前たちの記憶を消さなければならない」と告げる。ライジェルたちとの特別な思い出が消されることを悲しむユースケたち。でもたとえ特別な思い出がなくなったとしても、お前がお前でいる限り我々の友情は決して消えない。特別な思い出がなくたって今日みたいにバカみたいにラブコメやったような思い出をこれからも作っていける。そういう神殺しというかロマンティック幻想の否定みたいな話をやるんですよね。一回の特別な思い出よりも毎日のなんでもない小さな思い出の積み重ねこそが真の友愛だという。

シリーズ後半は一転、吸血鬼の貴族社会とライジェルたちの戦いが展開されるが、そこもシリアスな能力バトル展開ではありながらも結局は話し合いみたいなところに落ち着いてしまう。吸血鬼も人間も種族が違うだけで話せばわかるということをやっている。なんか終盤ライジェルだけ犠牲になっちゃいそうな雰囲気があってそれはすごい悲しいなと思っていたところで、そうはならずにみんな丸く収まってライジェルが学校に通って友人たちと笑い合う日常が戻ってくる。ああいい話だったな~という気分で終われる、すごいいい作品だった。日韓友好の鍵はノブレスにあるのかもしれません。

 

アクダマドライブ

あ~海外ウケのオサレ系アクションのやつね~くらいの第一印象だったんだけどめちゃくちゃ良かった……。色々言うことはあると思うんだけど、とにかく最終話のエンドロール、このカットを見せるために12話を積み重ねた作品。

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アニメ史に残るクレジット

黒沢ともよさん演じるただ偶然巻き込まれて「詐欺師」と呼ばれ指名手配されてしまった「一般人」が、如何にして自ら悪行を為し自覚的に「詐欺師」となるか、人は何故その一線を越えるのか。たとえ世界を救う力があったとしても子供を犠牲にして成り立つ世界が正しいはずがないし、大人は子供の尊厳と自由を守るために命を捨てろ(決して「子供を守るために」でないのが重要だよ)という、極めて真っ当な価値観でもって「一般人」が一線を越え「詐欺師」となる到達点を迎えたことは物語として至極納得のいく清々しい結末だったと思います。

世界設定はそんなに惹かれるものがなくて、日本っぽい国がよくわからん戦争で分裂して関西は関東の属国になってるっていう大枠はふーんくらいの感じだったんだけど、その中で関西の人々は支配者の関東をなんとなくありがたがっていて定期的に物資を運んでくる無人列車の「シンカンセン」を信仰の対象としている……というディティールが出て来たところで「おっ」となった。『マッドマックス サンダードーム』で、まあこれ自体はあんまし面白くない映画なんだけど、核戦争で不時着した旅客機を中心に乗客の子供たちが築いたコミュニティで彼らは「助けを呼んでくる」と言って旅立って遂に帰ってこなかった機長が救世主となって帰って来て楽園へ導いてくれるという神話を信仰している、っていうディティールが出てくる、あれっぽい。こういうどちらかといえば救いのない出来事を下敷きにして神話や信仰が発生する過程みたいなディティール好きなんだよね。

毎回サブタイトルがその回の内容に関係ありそうな映画のタイトルの引用になってるんだけど、6話の『BROTHER』が良い。処刑課は任務のためにツーマンセルを組ませて「情」でもって生存率を上げている。対してアクダマであるチンピラは力を持っている壊し屋を利用するために「兄弟」と呼び合っている。双方ともに作られた「情」だけど、いつしかそれが嘘なのか本当なのかわからなくなっていって、絶ち難い「情」となってしまっている。そこに正義と悪の違いはあるのか? 『BROTHER』では兄弟や家族の概念を利用する組織であるところの「ヤクザ」の一人がアメリカに渡って現地のチンピラ黒人と「兄弟」をやるって話で、結構そこにかかってるんじゃないかな。運び屋から一般人の手に渡り彼女を詐欺師にしたきっかけの500YENが、最後に子供たち兄妹の手に渡って自由への道を歩むというラストシーンも『BROTHER』っぽいと思う。どうでしょうか?

 

 

その他

ダーウィンズゲーム

王様ゲーム』みたいなやつを想像していたらめちゃくちゃしっかりしていた。ゲームに負けた人が現代アートみたいな痕跡を残して消滅するのが面白い。

 

ID: INVADED イド:インヴェイデッド

本堂町ちゃんかわいいよね。

 

痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。

話は全然頭に入ってこなかったんだけどアクション作画が良い。しかしこの手のMMORPGベースの最強主人公ストーリーで出てくる劇中ゲームって調整がカスすぎて見てても「これやりて~」ってならないものが多いな。

 

22/7

先だってweb配信されていた短編シリーズ『あの日の彼女たち』がすごいリアルっぽくて良いPVだったんで、2.5次元アイドルバラエティの計算中をアニメに先行してずっと放送してたことも踏まえるとTVシリーズもそういう狭間の生っぽさを見せていく作風なのかなと想像していたら全然違うトンデモだった。戸田ジュン回の抜きん出た演出とか印象に残る回はあるんだけど、全体的に22/7で観たいのはこれじゃなかったな~。でも秋元康が話の方にもかなり噛んでると仮定したときに十代のアイドルが大人の言いなりになんかなんねえという意志で大人の言いなりになんかなんねえというメッセージを発したところでそれすら大人の商売人の手の上ですよ、という話を自覚的にやってるんならそれはかなり業が深くて面白いなとは思う。

そんでなんだかんだ言っても最終回直前にアニメの内容を振り返る計算中の特番が挿入されて三四郎が「もう河野ちゃんで笑える感じじゃない」とか言ったりしてやいのやいのやるのが観られた時点でアニメやって良かったな~ってなったし、アニメ単体でなくプロジェクト全体で見るぶんには楽しかったかな。二期あるなら劇中で丸々一話使ってアニメで計算中やる回をお願いします。

 

かくしごと

これも最後に「走る」アニメです。

 

波よ聞いてくれ

札幌が舞台ということはこれはセイコーマートが出てくるアニメ。

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時給は安いよ

 

アルゴナビス from BanG Dream! ANIMATION

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函館と札幌が舞台ということはこれもまたセイコーマートが出るアニメ。つまり2020年はセイコーマートが出てくるアニメが新たに2作誕生しました。良かったね。

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SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!

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(追記)10話でセイコーマートが映り込んでいるとの指摘を受けた。気付かなかった!合掌造り集落にセイコーマートがあるの違和感がすごくて面白い。セイコーマートが飛騨にも進出した世界。

ということで2020年はセイコーマートが出てくるアニメが新たに3作誕生しました。セイコーマートの時代か?

 

ギャルと恐竜

ポプテピピックのフォーマットだな~って感じなんだけど、一見平面的なのに結構ダイナミックで面白いレイアウトがあったりして飽きない画面で楽しかった。キャラもかわいいし。実写パートがずっと意味深感出してたのに全然回収されないまま終わって笑った。

 

グレイプニル

岸田隆宏デザインのキャラがすごい肉感的でやらしい。

 

ガンダムビルドダイバーズ Re:RISE

もはやほぼガンプラ関係ないMMORPGアニメなんだけど、なんか納得いかないんだよねこれ。前作のビルドダイバーズでゲームの中にも生命が生まれたって話をやったのにそのシリーズ続編で「ゲームのNPCだと思ったら別の世界のマジの生命でした」って話をやるのって後退してないか?

ビルドシリーズってバンダイ主導でガンプラ売るためのアニメやるぜって企画のはずで、模型作って遊ぶことを題材にしているわけで、それなら画面上にしか存在しないキャラクターを立体にするということ、作り物のおもちゃに本物を見出し自分の手で形にするということの意味を表現するべきじゃないかと思うんだけど。なんで動くガンダム立像とか作ってるのかって話でさ。ただの遊びだと思ったら命がかかってましたってのはMMORPGベースのデスゲームものの定番で今さらじゃん。誰かが書いたただのテキストでしかないNPCの台詞一つにもプレイヤーは感情を揺さぶられ、そこにない魂を幻視するわけじゃないですか。アニメであれゲームであれおもちゃであれ人はただの作り物にも生命を見出すことができる。ガンプラが様々な稼動を仕込んで劇中のポーズを再現したりできるように進化してきたのってそういうことを叶えるためじゃないのっていう。なのに「ただのNPCだと思ったら生きてました」って結局本物の生命がないとゲームに本気になんない話を見せられてもさー、それってどーなん?

 

八月のシンデレラナイン Re:fine

初回放送時に絵が不安定だったやつのリテイク版ってなんか不安定だった絵の方に愛着湧いて最初のがかわいかったなってなりがち。パースがおかしいとか色間違ってるとか明らかなミスはともかくとして最近のアニメでキャラの絵柄が崩れるって言っても見るに堪えないレベルの崩れ方することってそんなないし。散々言われてるけど作監大量動員でキャラの顔だけ死守するやつって大して意味ないと思うんだよな~。13話の完成待ってます。

 

ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld

話数の使い方が贅沢すぎるシリーズ。超人気作品だから贅沢に使えるのかもしれんけど贅沢っていうか冗長にも限度があるのでは……。シリーズの流れとして命を賭けたデスゲームから始まってゲームの中でだけ自由になれる病人の話をやったり現実世界にレイヤーかぶせるARゲームで肉体に改めて向き合うことになる話をやったりしてきた上で、ゲームのNPCに生命を見るという話に持ってくこと自体は筋が通ってると思うんだけど。

日本ゲーマーを陥れるために中国ゲーマーと韓国ゲーマーを動員するまではまだわかるとしても「日本人はチート使ってる」という言葉で中韓ゲーマーを組ませて煽るのは無理でしょ。日本なんか比じゃないレベルでゲームにマジになってる韓国ゲーマーが中国がチートの本場であることを知らんはずがないし、マジな中国ゲーマーは自国内のチートの蔓延にこそ心を傷めていると思うぞ。まあアニメの世界の話なんで我々の世界とは関係ないのかもしれませんが……。

こんだけ金の動くコンテンツなのに作者の趣味としか思えないやたらと加虐的な場面が執拗に挿入されたり最後よくわからんままビックバイパーとロードブリティッシュが出てきてグラディウスをやってたり、もうお前の勝ちでいいよ……みたいな感じではある。

 

ひぐらしのなく頃に

リメイクなのか新作なのかを隠しておいて1話の最後で真のタイトルが明らかになり新作だと判明する、はいふり的なメソッドを採用したことでまあまあ話題になった。その必要があったかは謎。ただ今さらそこを丁寧になぞられても困る冗長なシナリオ運びが退屈なんだよな~。謎やヒントの提示に必要なのかもしれんけどせっかくアニメなんだから話数を無駄にしている感があってもったいない。2クール目に入ってようやく目新しい話が展開されて面白いのは面白いんだけど。

 

魔女の旅々

最終話、衝撃の本渡楓劇場。

 

戦翼のシグルドリーヴァ

そんなところにそんなカロリー高い作画する?というシーンが多くてなんか常に作画が良く自由度も高かった。話はだいぶしょうもないがアズズがかわいい。

 

ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN

人型ネウロイってどうなったの?というもはや誰も気にしていない伏線を置き去りにしつつネウロイを口実にひたすら女と女がいい感じになる迫力のシリーズ正式続編。伝説の2期6話に負けず劣らぬ3期6話、かと思えばストライクウィッチーズってゼロ年代の深夜アニメなんだよなっていうのを忘れさせないお色気下ネタ回も完備と、100%ストライクウィッチーズという感じで満足度が高い。色々萌えミリアニメが出現したけど後は我々ストライクウィッチーズに任せて皆さんお休みくださいとでも言うかのように戦車や軍艦がどんどこ出てくるのも面白かった。

バルクホルンさんの出番が多くて嬉しい。

 

神様になった日

プレイヤーが何十時間もかけて一文一文クリックして複数ルートを読み進めることで物語全体を飲み込むデジタル紙芝居の感覚で1クールのTVシリーズの話を作っても、いやそんな雰囲気出されても知らんしってなるだけじゃんという、これAB!と同じだな……。原点回帰ってそういうこと? 知的障害者に一方的に愛情を向けて対象に障害がなかった頃のビデオメッセージから相手もそれを望んでいるのだとイタコで現状を肯定するというオチがめちゃくちゃ邪悪で気持ち悪くて原点回帰というよりむしろ悪化しとるやんけ。奇跡の詩人じゃん。これなら奇跡が起きて障害治りましたあんたがずっとそばにいてくれてたの全部見てたでめでたしめでたしの方がきもいはきもいけど本人の意思が存在するだけまともでしょ。

でも作画はめちゃくちゃ良かったのでそこは満足です。

 

憂国のモリアーティ

めちゃくちゃWOWOWアニメっぽい。シュヴァリエの次くらいにやってそう。

身分制度に守られて好き放題やってる貴族を裁いて社会を変えようという野望を持ったモリアーティ兄弟が犯罪コンサルタントやるっていうストーリーはわりと面白そうなんだけど、裁かれるべき貴族連中が普段から平民をゴミ扱い動物扱いする言動を隠さず虐待したり殺したり差別しまくる差別モンスターばっかでなんかそれ悪にしか裁けない悪って感じではないよね感があり、モリアーティの頭脳が求められるシチュエーションの説得力があんまりない。スカッとブリテン。そんで結局ホームズとの対決路線に行くからキャラ設定アレンジしたシャーロック・ホームズに収まってしまうという。まあそういう感じも含めてWOWOWアニメっぽくはある。

 

禍つヴァールハイト

これもちょっとWOWOWアニメっぽいよな……。

最初の「えっこれが主人公なんだ」という驚き。こんなにモブっぽい造形で主人公ってちょっと目新しい気がする。中盤までは一体どういう話になっていくのかワクワク感があって楽しかったんだけど、一体どういう話になっていくのか?と思っているうちに一体どういう話だったんだ?となり終わってしまった……。

だいぶ終盤近くになってから気付いたけど原作スマホゲーの前日譚的なアニメだったのねこれ。スマホゲーもサ終しちゃってアニメ続編もないだろうし、原作プレイヤーも一体どういう話だったんだ?で終わってしまった模様。悲しい……。

 

劇場版ハイスクール・フリート

はいふりなのに劇場作品ならではのスケール感やスペシャル感のある作画もありながら、はいふり特有の「は?」という感じの場面も十分にあり、さらにTVシリーズ初回放送版を彷彿とさせるへちょいキャラ作画もある、120%はいふりの映画を観た!という満足感でいっぱいの素晴らしい劇場作品。公開時は作画が間に合ってなくてもっとへちょい絵があったらしく、劇場で観られなかったのが心残り。すべてのアニメは公開したすべてのバージョンを参照可能にアーカイブすべきだと思います。

わずか一年でサービス終了した過疎スマホゲーム『艦隊バトルでピンチ!』に登場したキャラクターたちもちょい役で出番があってしっかり供養されていたのも良かった。

 

22/7計算中

アイドルバラエティなんだけど結構アニメだと思うんだよねこれ。

演者と演出家、放送作家やエンジニアがキャラクターと向き合って芝居を付けるっていうのはもうアニメじゃん。計算中は基本的にはキャラクターを演じているけどガチガチに固めず程よく中の人の性格も出せてゆる~くキャラクターが成り立っているのが面白いところなんで、完全にアニメと言うほどにはアニメではないかもしれないけど。

 

まとめ

2020年も楽しいアニメがたくさんありましたね。

2021Q1はワンダーエッグ・プライオリティが面白いよ。

 

次回予告

次回更新は『2月26日に観るべきアニメ1選』の予定です。

 

 

*1:田中絹代が走る

*2:アメリカ兵がソマリアを走る

*3:ナポレオンがロディの橋を走る

*4:星宮いちごと大空あかりが走る