第六の絶滅

Die Wahrheit ist irgendwo da draußen.

ヤマノススメ抱き枕カバーがもたらしたもの

 2014年12月、『ヤマノススメ セカンドシーズン』は好評のうちに最終回を迎えた。昨年の中でも特に良い作品だったので、以下のような記事を書いたり、微力ながらBlu-rayも臓器を売って購入させていただいている。最終巻に収録されるTV未放送オリジナルエピソードや、4月開催のイベントでサードシーズンが発表されるようなされないような予感もあり、まだまだ話題の尽きない作品だ。

 

 ただ、どうしても一つだけ引っかかることがある。12月末、ヤマノススメ セカンドシーズン #24(最終回)「さよなら、わたしたちの夏」の放送で流れたこちらのCMに衝撃を受けた。

 

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 「アース・スター ドリームです!」

 

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 「緊急告知!」

 

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 「『ヤマノススメ』から」

 

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 「あおいとここなの抱き枕カバーが発売決定!」

 

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 「2人とも衝撃のビキニ!」

 「2月下旬の発売です!」

 

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 「アース・スター エンターテイメント

 

 …………。

 

 …………。

 

 はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?!?!?!?!?

 

 …………。

 

 …………。

 

 はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?!?!?!?!?

 

 はぁ……往年のテキストサイトのように改行を多用するくらいつらい……。

 

 ヤマノススメ セカンドシーズン最終回が無事封切られた。スタッフ一同の拍手のなか、監督からあおい、ひなた、かえで、ここなの四人に花束が手渡される。ありがとうございます、ありがとうございますと恐縮しつつも満面の笑顔で喜ぶあおい。あおいを茶化しながら自分も少々照れくさそうなひなた。キャストを代表してあおいが素晴らしい仕事をしてくれたスタッフへたどたどしくも感謝の言葉を述べる。誰もが最高の仕事をしたという満足感と、無事仕事を終えられた安堵に包まれていた。

 「チィ~ッスw」突然現れた男の無遠慮な態度に空気が凍りついた。怪訝な顔をするキャストたち四人を気にせず、その男はあおいとここなの腕をつかみ「じゃ、この子らウチで借りていきますんで」と言って強引に二人を連れてどこかへと去って行った。「え……あおいとここなちゃん、どこに行くんですか」二人を心配するひなたに、あるスタッフは何か鈍い痛みを堪えているような、それでいてそのすべてを受け容れてしまっているかのような表情で「アース・スターで、広報のお仕事があるんだよ」と答えた。

 

 このCMを見た時、脳裏に浮かんだのが以上のような光景だ。国連人権委員会アムネスティ・インターナショナル等の諸機関への告発を検討された方も少なくないだろう。

 アニメーションは、一つの世界と時間を作り上げる芸術だ。むろん『ヤマノススメ』もその例に漏れることはない。キャラクターたちがしっかりとその地に根ざし暮らしている時間と世界を構築していた素晴らしい作品だった。その作品の最後の最後、最終回という一つの到達点に、よりにもよってただ性欲を掻き立てるだけの何の遠慮もないグッズのCMをドヤ顔でぶち込んでくるこの無神経さ……これが人間、そして世界への冒涜でなく一体何であろうか。*1

 百歩、いや、三千兆歩譲ってヤマノススメのドスケベ抱き枕カバーを商品化し公式で販売することは良しとしよう。商売のためにはそういった手段が正当化されてしまうのもコンテンツビジネスの現実である。でもさー、このデザインはないんじゃない?

 

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 これさー、どういうシチュエーションなんだよ!!!!!

 抱き枕って普通布団で使うけど布団の上で寝袋は使わないよな~っていうまず商品の用途を考えた時に破綻している部分と、そこを置いても寝袋ということはキャンプ、ビニキということは海か川?、でもストックとヘッドライトあるから登山だよな~登山でビキニなんか持って行かないよな~~~~~~~~あぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 私は抱き枕カバー文化には詳しくないので他と比較することはできないが、「抱き枕だから露出増やしてセクシーだよな~じゃあビキニ! ヤマノススメって登山するんだろ? じゃあ寝袋の上で~、登山装備を適当にその辺に置いておけばよくない?w」のような適当な考えで「ヤマノススメで~すw」という顔をしているのが透けて見えるデザインは、全くなっていない。たとえばどうしても「衝撃のビキニ!」をやりたいのであればビーチサイドや河原を想定した背景にすればいいし、または寝袋とストックはそのままで服装は登山ウェアが半脱げになっているだとか、そうした整合性の取れたコンセプトが想起できるものであれば、まだ合点がいった筈だ。あるいはあおいとひなたが発売したのであれば、一枚ずつ揃えて抱き枕状態で布団に寝かせ、自分は床で寝る、などといった方法で世界を護ることもできた。どうせ作るなら世界の声に耳を傾け本気で作ってくれ。この通りだ。

 

 で、得てしてこういったアイテムはウェイなチンポの自己顕示に利用される。厄介なことにこれは公認された行為なのだ。

 抱き枕登山じゃあないんだよ。

 いくら私が声を上げてもこうして世に産み落とされてしまった以上、それがもたらしたものを見届け、教訓を後世に語り継ぐ必要があると思い、発売日前後にインターネットで検索し、一体この罪深いアイテムがどのように“利用”されているのかを確かめた。そこには生活感が溢れすぎている部屋に寝かされたあおいとここなちゃん、ウェイなチンポの旗印になっているあおいとここなちゃんなど、あまりに残酷で凄惨な光景が広がっていた。もちろん晩飯は全部戻したし即座にPTSD心的外傷後ストレス障害と診断されたことは言うまでもなかろう。

 抱き枕カバーの他にも以下のような人権侵害が確認されている。

 

劇中であおいがセクシーな水着を購入するエピソードにヒントを得て、「あおいが想像しそうなセクシーな姿」をコンセプトとし、バニースーツを着た姿を描き下ろしていただきました。

 物は言いようだ。

 

●あおい
・音声①
「うぅ・・・ もぉ~ どうしたのぉ~ 抱きついてきて よ~しやる気注入~!」
・音声②
「ねえねえ、あんまりきつく抱きしめないでよ~。少し、苦しいかも……」
・音声③
「えっとね、こうやってされるの嫌いじゃないよ。だから、えっと、その……」

 はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 しかし幸いなことに、この下水道に流れる汚水を濃縮させることで資本主義というイデオロギーが受肉し人間に牙を剥いたかのような抱き枕カバーに対するインターネット世論は圧倒的に批判側に傾いているように見受けられた。未だ品切れになっていないあたり、さほど売れていないことが見て取れる。設定資料集と抱き合わせにするという無辜の市民を人質を取るに等しい非道なやり方もさほどの効果はなかったようだ。

 確かに我々は単なる消費者に過ぎないかもしれない。だが口を開けて餌が注がれるのを待っているだけの家畜では決してない。

 

 

ヤマノススメの山のススメ (NEKO MOOK)

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ヤマノススメ セカンドシーズン7巻 [Blu-ray]

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*1:なお現在発売中のBlu-ray第5巻、第6巻にも映像特典として収録されているため、半永久的にこのCMから逃れることはできない。