6月24日はUFOの日なのでOVA『イリヤの空、UFOの夏』の話題。と言ってる間に日付が変わってしまった。
2005年とまだそんなに電撃文庫のメディアミックスが多くなかった時期ということもあり全6話と小粒で尺不足を感じながらも、わりと原作に忠実に映像化された作品。まあそのぶん面白みに欠けるきらいもあるんだけど、#3はまさにアニメならではという仕上がりになっているので必見。
■#3 「十八時四十七分三十二秒」 絵コンテ・演出:中村健治
学園祭を控えどこか浮ついた空気の学校で、授業をサボったりしながら新聞部の展示の準備をしていた浅羽は、伊里野と一緒にファイヤーストームでフォークダンスを踊る約束をする……という話。
この回はもうアバンから雰囲気が全然違って、とにかく画面が暗い。モニタの輝度設定間違ったかなってくらい暗い。昼間の教室からしてこれ。
部室も暗い。
伊里野と二人きりのときは少し明るくなる。
学園祭当日、昼間の屋外でもとにかく暗いカットが多い。
晴天下でもとにかく陰影を強調している。
学校全体はお祭り感に湧いているのに浅羽は伊里野のいない学園祭にもの足りなさを感じている、という状況をこれでもかと強調した画面作りが続く。
それが変わるのはBパート後半、学園祭最終日も後はファイヤーストームを残すだけという時間に、伊里野から電話の呼び出しが来てからだ。
浅羽は学校を飛び出し自転車で六番山へ向かう。画面は徐々に夕日に照らされていく。BGMは「マイムマイム」が流れ出す。美術もレイアウトも良いですね。
学校の校庭ではファイヤーストームが点火された。炎が夕日と重なり眩く光る。
浅羽は夕日に向かって走る。夕日とそれが生み出す陰影のコントラストが美しい。
辿り着いた先で浅羽は伊里野の幻を見る。夕日が二人にとってのファイヤーストームだ。
ここからは動画で。
爆音と共に突然出現するブラックマンタ。暮れかけの空を照らすアフターバーナー。
それよりもなお美しく輝く夕日。逆光で浮かび上がる機体のフォルム。
そして二人はフォークダンスを踊る。浅羽とシンクロしてくるくると舞うブラックマンタ。最も美しいカット。
ブラックマンタは空に消え、たった数分のダンスは終わる。沈む夕日。
止まった時計。サブタイ「十八時四十七分三十二秒」
暗い画面で形作られた鬱屈とした世界が最後の5分で鮮やかに塗り替えられていく快感!!! あまりにも美しい夕日とブラックマンタのコントラスト!!! すっとぼけた『マイムマイム』のメロディーとカッチリ決まった美しい画面のギャップが生み出すシュールな雰囲気が、いつの間にかただ美しさに包まれるシークエンス!!! ここは何回も観ちゃう。
コンテと演出は後に『空中ブランコ』や『ガッチャマン・クラウズ』を監督する中村健治。敏腕ですね。
このOVAは原作ファンにはそんなに評判良くなくて、自分も発売当時に買ってて全体的になんかぱっとしないシリーズだったなあと思った記憶があるんだけど、この回は文章では絶対にできない、アニメにしかできない表現を観られる素晴らしい出来だったと強く印象に残っていた。ブラックマンタ*1の見せ場は最終回よりもこっちだ。
10年以上前のOVAでDVDのみだから中古100円とかで買える。しかしキャプで見ても画質が荒い……。