第六の絶滅

Die Wahrheit ist irgendwo da draußen.

Simoun-シムーン- マミーナとロードレアモンの物語

ある一部のアニメファンにとって「物語も半ばに命を落とし話題をさらったマミさん」と言えば、『Simoun-シムーン-』のシヴュラ・マミーナである。

この“2006年を百合色に染め上げ*1”た『Simoun-シムーン-』という作品には何組かのカップル(便宜上こう呼ぶ)がいるが、その中でも特に丁寧にその関係性が描写されているのが、このマミーナとロードレアモンだ。

ロードレアモンは由緒正しきシヴュラの家系の生まれで大人しいお嬢様。マミーナはそのお屋敷の使用人の娘で上昇志向の強い勝ち気な少女。

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生前のシヴュラ・マミーナ(かわいい)

 

この二人の変わっていく関係性は「髪」を用いて丁寧に描写される。

まずは #10「籠の鳥」

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幼少期の二人はまったく違う髪型をしている。

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成長した二人は一見違った髪型に見えるが、マミーナはロードレアモンと同じ三つ編みのおさげをリボンで結い上げている。

子供の頃は仲が良かったのにどうしたら仲直りできるのかと問うロードレアモンに対し、マミーナは「どちらかが使う者でどちらかが使われる者だった」「あなたの三つ編みが羨ましかった」と言う。

ロードレアモンは両親に言われて三つ編みにしていただけで髪型に特別な思い入れはなかったのだが、マミーナにはそれが望めばなんでも手に入るお嬢様の髪型に見えたのだと。

マミーナはロードレアモンを嫌っているわけではなく、シヴュラの家系ではない卑しい家の出であるが故のコンプレックスがロードレアモンに対し複雑な感情を抱かせている。

そのすれ違いをこのカットは象徴している。

マミーナがリボンを解きさえすれば、あるいはロードレアモンが髪を結い上げさえすれば、二人は同じ髪型になれるのだ。

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「あなたとはパルにならない」と意地を張るマミーナに、「本当の友達になりたい」と言ってロードレアモンは左の三つ編みを切る。

この三つ編みはマミーナとロードレアモンの繋がり、そしてシヴュラとしての誇りを象徴するものだ。

これはマミーナの目にはとても残酷なこととして映っただろう。

ロードレアモンは望んでシヴュラになったわけではなく、ただシヴュラの家系に生まれたからというだけで、辞めようと思えば辞められるのだと、身分の違いを見せつけられているに等しい。

結果的に、仲間の窮地に意地を張り合っている場合ではないとマミーナは折れ、これをきっかけに二人は形の上で仲直りすることが出来たのだが、この時ロードレアモンは髪を切らずともマミーナと同じ髪型になれたことに気付いてはいない。

「昔は親しくロードレと呼んでくれた」と駄々をこね髪を切るという衝動的な行動に奔ったロードレアモンは、マミーナの中にある身分の違い、「自分は本当のシヴュラではない」というコンプレックスを理解してはいないのだ。

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ロードレアモンはマミーナと同じ髪型になるために三つ編みを切ったつもりが、その行為がむしろマミーナから遠ざかる結果に陥っている。

 

これを受けるのが #19「シヴュラ」

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死の覚悟を決めたマミーナは右のおさげを切る。

言うまでもなくこれは #10 のロードレアモンと鏡合わせになっている。

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ロードレアモンが「本当の友達になりたい」という願いから髪を切ったのに対して、マミーナの断髪は死、すなわち別れの儀式であり、まるで正反対の行為だ。

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しかもこの髪は出撃前にロードレアモンが編み直してあげたものである。

「さようなら、シヴュラ・アウレア」とネヴィリルに遺髪を託し別れを告げた彼女は、同時にロードレアモンにも永遠の別れを告げているのだ。

 

そしてこの2回は #20「嘆きの詩」で繋がる。

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棺に入れられたマミーナは死化粧を施し髪も切りそろえられた。

この時、初めて二人は同じ髪型になれたのだが、それは永遠の別れでもあった。

マミーナの遺体は夜、葬儀も上げないままひっそりと彼女の故郷へと移送されてしまう。

これは彼女がシヴュラの家系の出ではないからという理由、またシヴュラを軍人として扱おうとする司兵院とあくまで宗教者として扱おうとする宮主の縄張り争いが原因で、死すらも大人たちの政治に利用されるという象徴的なシーンでもある。

この事件をきっかけにロードレアモンはマミーナが抱いていたコンプレックスに気付く。

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マミーナの三つ編みの遺髪を手にした彼女は、マミーナがシヴュラの家系の出ではないが故に誰よりもシヴュラらしくあろうとしていたこと、シヴュラの家系のお嬢様である自分に対し彼女が抱いていた複雑な感情、そして彼女も自分と同じ三つ編みをしていたこと、髪を切る必要などなかったことにようやく気が付くのだ。そして本当に解り合う機会は二度と訪れないことにも。

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マミーナは宮主が送った故郷の大地に葬られることもなく、名もなき花畑の中にその亡骸を沈めた。

だが残された仲間たちが祭祀の巫女という本来のシムーン・シヴュラに立ち戻り追悼のリ・マージョンを捧げたことで、マミーナはシヴュラとして葬送される。

 

さらにマミーナとロードレアモンの物語は続く。

#26 最終話「彼女達の肖像」

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最終話では泉へ行き大人になった彼女たちのその後が描かれるが、大人の女に成長したロードレアモンは生前のマミーナと全く同じ髪型をしている。

ロードレアモンはどうやらパライエッタと共に戦災孤児のための孤児院を運営しているようだ。

言うまでもない、これは彼女と同じように戦争によって大切な人々との繋がりを奪われた子供たちを助ける仕事だ。

戦争がなければ、マミーナが髪を降ろし、あるいはロードレアモンが髪を結い上げることで二人が本当に解り合える日も訪れただろう。

だが戦争は無慈悲にマミーナの命を奪った。マミーナが髪を降ろすことは二度とない。

だからロードレアモンは髪を結い上げた。マミーナを理解するために。

ロードレアモンはマミーナの死を乗り越え、気付いて理解してやることができなかったマミーナの思いに寄り添っているのだ。それ故、彼女はかつてのマミーナと同じ髪型をしているのだ。

美しい、美しいと言わざるを得ない、なんと美しい物語だろう。

マミーナとロードレアモン、彼女たち二人の髪から紡がれたこの美しい物語と、それを作り上げた人々に最大限の感謝と敬意を表したい。

 

備考

ロードレアモンの髪型に関して、“「ものすごく平凡な子、っていう設定なんだけど、この子にもこれはっ!って瞬間が欲しい。なんかアイディアある?」って監督に聞かれて、「髪をばっさり切るようなイベントがいいです!」って言ったのをストーリーの中にすごく巧みに生かしてもらえました。”というキャラクターデザイン西田亜沙子氏の言及がある。*2

 


 

 

*1:公称

*2:Simoun-シムーン- オリジナルサウンドトラック 2』ライナーノーツP.6